Path Markなる大手スーパーの進出にて、小売店が姿を消しているハーレム。近
所の125丁目沿いにコリアンが経営していた魚屋が潰れてしまったせいで、行き
場を失った猫のように生魚にありつけず困っている。
アメリカのスーパーっていうのは、シャケやヒラメの切り身やエビなどなど、大
物の魚しか売っていない。サバの味噌煮とサバの塩焼きという好きな私。などと
いえば貧乏まる出しだが、「サバサバサバサバァー」と日本食レストランに行けば
塩サバ定食をオーダーするのだった。
そんなある日、125丁目より北へ向かったレノックスアベニューという通りに魚
屋を発見した。生くさい魚の臭いと、入口に群がるハエのグルを目にした瞬間、
ニャンパラリンといなかっぺ大将のニャンコ先生のようにクルリと宙返り、小躍
りして喜んだ。
中をのぞくと、蛍光灯に照らされた細長い店内にブラックの爺さん2人が働いて
いるのが見えた。さすがに一人で入る勇気が無い。爺さんたちが手にしている包
丁で裁いているのが、魚だという保証もない。
その日は、震える拳をにぎりしめ扉を開けることを断念したのだった。数日後、
友人と歩いていたので勇気をふりしぼって魚屋に入ってみることにした。「たのも
う!」小さな白人の爺さんと2人のブラックの爺さんは同時に手を止め私たちを
凝視した。
「道でも尋ねにきたのかアジアの女よ」と、3人が一様に不審な顔をしていた。
「オヤジィーこのサバを包んでおくんなまし。」とオーダーすれば、「魚を知って
いるのか?」と白人の爺さんが聞いてくる。
「もちろんだぜぃ。こいつがサバでしょう。」と答えると爺さんは白い氷の中から
サバを掘り起こした。「何匹欲しい?」「うーん、1匹・・・いや2匹頂戴!」爺
さんは2匹のサバの尻尾を掴むと奥へ行く。
「ハラワタは出す?頭はカットする?」などなど聞いてくるので、「腹は切ってく
れ、カシラは要らん」などと口ごもりながら答えた。「あんたワシの英語を理解し
てるんかい?」とオヤジが怪訝そうな顔をする。
「おぅーわかっとるでぇー」爺さんが魚を包んで手渡してくれる「チップを1ド
ル」と渡そうとすると「そんなものは要らないよ。」とフレンドリーな笑顔を見せ
た。
「爺さんは、どこの出身なの?」と問えば「イタリアだよ。1920年に家族が皆で、
こっちへ来たんだ。俺は、45年間ずーっとハーレムに住んでいる。」とピクリと
も動かずに答える。
爺さんの白い肌はハーレムでは滅多に見ない透けるような白さで、魚を冷やす氷
に囲まれて更に白さを増しているようだった。「ゴッドファーザーの親戚さ。」と
隣で働いていたブラックの爺さんが、からかい半分で笑った。
「もうゴッドファーザーなんて、言われなれてるから。」と、イタリアンの爺さん
は毅然としていた。「また来るからな。爺さん。」と笑顔で手をふり店を出た。
買ってきたサバは生姜醤油で煮つけた。臭みもなく美味しかったが、ついでに夏
のサバだったせいで油ののっていないサッパリ味だった。次は、どの魚にチャレ
ンジしようか楽しみである。
作者より
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「ニューヨークで暮らす」オールアバウト・ジャパンにてガイドを担当している
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