「松塾」ニュースレター見本  下記の報告と教訓は、2006年夏にデンマークで開催されたWOC(世界選手権) のリレー直前と当日の記録から引用しました。「松塾」ニュースレターも、概ね 下記のようなスタイルになることを想定しています。お目通しください。 <8月3日 レストデー>  午前中はリレートレーニング。女子はミドル決勝を控える番場選手や遅れてチー ムに合流した元木選手もいるので各自の裁量で調整を行なったが、男子は国際オリ エンテーリング連盟(IOF)の会議に出席した村越選手以外の選手全員が同じト レーニングをこなす。紺野選手・高橋選手といった実力者が設置を行なった(つま り一度コントロール位置に行っている)コースを初見で走り、彼らについて行くの は骨が折れるが、この引っ張られる感触こそが国際大会のリレーの感触だ。加藤選 手の「お互いに設置し合って集団のスピードを高めるリレートレーニングは日本で も取り入れたいですね」とのコメントに同感。  午後は小泉選手と共に街をぶらつく。今日もONとOFFの切り替えがうまくい った、と感じた。 教訓:  オリエンテーリングは個人競技である。しかし、WOCはそれ自体が一つの団体 競技である。そしてWOCのリレーは「団体競技の中の団体競技」である。 <8月4日 ミドル決勝観戦>  この日は会場に向かわず、宿でミドル決勝のインターネット観戦。トップ選手も 序盤でてこずる中、番場選手が好タイムで第一中間を駆け抜けていた。  ロング予選終了後、チーム内でそれまでの反省とその後の対策のためにミーティ ングを行なった。その際、多くの選手が共通して挙げた注意点があった。 ・ 緩斜面のエリアで方向を失いやすい。 ・ Aの林(地図上の白)の現地での見かけが、場所によって様々。「Aやぶ」と いう場所もあれば「スーパーA」もある。  具体的対応策として、次のことが挙がった。 ・ コンパスを使うこと、小さなやぶや地形、僅かな区間見通しを遮る密生した木々 に囚われず、先(奥)を見て、地形を大きくとらえて進むこと。 ・ まずはアタックポイントを引き付けたシンプルなプランをするべき。  どうやら番場選手はWOC期間を通してこれらを適切に実行していたようだ。昨 年より順位は下げたものの、今後に向けて期待を持たせ、チームメイトにも勇気を 与える走りを見せてくれた。  女子は女王・シモーネ選手(スイス)が二冠達成。男子の金メダルはホルガ選手 (ノルウェー)の手に渡った。ホルガ選手はロング決勝で自身のWOC経験の中で 最悪の結果に終わっていたが、雪辱した格好だ。ロング優勝のヤニ・ラカネン選手 (フィンランド)と同じく、30代にして初のWOC個人タイトル獲得である。 教訓:  失敗したレースは、教訓だけ引き出したらすぐに忘れるべき。全てのレースは 「新しいレース」である。次のレースのパフォーマンスを決めるのは、「直前の レース結果」ではなく「競技生活において積み重ねた全ての準備」だ。 <8月5日 リレー>  以下、前日のミーティングでのロブコーチからのアドバイスである。 ・ すでにあらゆることに対する準備はできているはず。新しいことは何もない。 急傾斜のテレインは日本人にうってつけである。自信を持つこと!  ・ リレーではしばしば大きなグループが形成され、個人戦と異なることが起こる。 でも、一走でさえも集団の中の走りにならないこともある。寝る前に「集団の中で の走り」と「一人になった時の走り」の両方をイメージしておくこと。 ・ まずは「左」「真ん中」「右」と幾通りかの可能性を考慮した上で、自分自身 でルートチョイス&プランを行なう。その上で集団の大多数が自分のプランと異な る方向に向かったなら、少々劣るルートでもそちらに向かう。集団によるスピード アップ効果により、多少のルートの不備を補うことができる。ただし、少人数なが ら自分たちの方が「much better」なルートと確信できるなら、そちらを選ぶべき。 ・ もちろん、コントロールコード番号のチェックは必須だ。言うまでもないこと だが、今一度思い出せ。コード番号のチェックがしやすい地図折りを意識すること も必要だ。 ・ チェンジオーバーの方法は現地でよく確認しておくこと。男子に関しては、女 子が先にスタートするので、確認しやすい。TVに映る部分もあるが、意識するべ きではない。TVコントロールだろうが、並走するランナーが先に脱出しようが、 プランをしていないのだったら、まず自分のことにfocusすべき。地図上で白いエリ アは見通しが良いのだから、一時的に少々の差があってもすぐに追い付くことがで きる。  さらに、WOCリレーを二桁回数経験しており、昨年のWOCの競技面を監修し てもいる村越選手から ・ リレーはコースプランナーのサジ加減と、選手がそれにどう反応するかによっ て大きく展開が変わる。デンマークのテレインだと終始集団が形成されるように想 像しがちだが、そうはならない可能性もある。フタを開けてみないと分からないの だから、先入観を持たないこと。 ・ 集団に置いていかれても、そこからのベストレースをすることが大事。2時間 半の間には当然色々なことが起こるのだから、様々な状況をシミュレーションして おくべき。  といったアドバイスも与えられていた。  一走の小泉選手は会場に着くと早速会場レイアウトの確認をしていた。自分も追 随する。中々走り応え・見応えのありそうなレイアウトだ。  先にスタートした女子のレース展開によって、分単位のミスが起こりやすいコー スであることも分かった。警戒心を持つが、小泉選手から「女子とはコースも展開 も違うんですから」という冷静なコメントがあり、その通りだ、と考える。  これらのおかげで、自分自身は先入観を持たず、「自分にとってベスト」と思え る選択を重ね、充実感を持って走り切ることができた。順位も3つ上げた。結局、 最終順位は38チーム中の24位。これがWOC2006日本男子チームにとって唯一の決 勝種目となったリレーで与えられた数字だった。色々な評価が成り立つと思うが、 ひとまず全てのチーム関係者に「お疲れ様、ありがとう」と言いたい。 教訓:  「想定される展開を思い描くこと」と「先入観を持つこと」は異なる。競技者は 大願成就のためにしばしば夢想家となることも必要であるが、レース直前には現実 家であるべき。