2月3日・日本学連合宿講義 「地図の表現について」 講師:山川克則氏(ジェネシスマッピング)  オリエンテーリングの何が面白いか、と言えば「ミスの少ない選手が勝つ」こと。もち ろん、ミスをしない同士であれば体力がある方が勝つのは言うまでもない。体力も重要で はあるのは当然だが、この場所では20年間インカレの地図を作成し続けてきたマッパーの 視点から「Oマップはどのように描かれているか」「Oマップをどのように読むべきか」に ついてお話したい。 ◇ どうしてミスするのか オリエンテーリング競技者はどうしてミスをするのだろうか。「地図」に関する理由と しては、以下が考えられる。  理由1) 地図がおかしい  理由2) 地図が読み切れていない  ミスの原因として、「地図が間違っている」という話を聞く。それは正しいこともあるが、 「選手が間違った情報を拾ってしまう」ために起こるミスもある。  経験豊富な選手は「ぼろい」地図でもオリエンテーリングができる。村越真(元全日本 チャンピオン)に、「どうして『ぼろい』地図でも勝てるのか」と訊いたところ、「どうい う意図でこのように作図されているか、調査者の意図を読み切り、それに合わせてナヴィ ゲーションすれば良い」という回答があった。情報の取捨選択の重要性を示唆するコメン トである。 ◇ 日本のOマップの質の向上がもたらしたもの  2000年、富士で行われたワールドカップを境に、日本のOマップのレベルは一挙に向上 した。  要因1) 海外マッパーと日本のマッパーとの交流が生まれた  要因2) GPSの導入により、「位置ずれ」がなくなった  要因3) OCADの進化により、すぐに地図が修正できるようになった  Oマップでは、「絶対的な方向」は合っていなければならないが、GPS導入以前は、区 画ごとの方向合わせを「力業」で行っていた部分があった。ほとんど使われないヤブのエ リアにひずみを集中させて吸収する、というように。しかしGPS導入後、そうしたこと を行う必要がなくなった。フィルム上に作図していた頃は難しかった修正作業も、今はコ ンピューターの画面上で手軽に行える。試走をするたびにフィードバックがなされ、地図 の精度は上がっていく。「どこからどう見られても良い」ように作られているのが現代のO マップ。競技者には「間違った情報を捨て、正しい情報だけを拾う」ことから、「正しい情 報の中から、より有効な情報を選択する」ことが迫られるようになった。具体的には昼の メニューのように、「単純化」をすること。そのためには、「良い地図で沢山練習すること」 が不可欠である。 ◇ Oマップは大げさに描かれている  Oマップは「オリエンテーリングを行うために作られている主題図」である。絶対的な 正確さよりも「オリエンテーリングのしやすさ」が優先される。例えば、岩は1:15000の 地図上で直径0.4mmの黒丸で描かれるが、現地の岩は直径6m(=0.4mm×15000)あるわけ ではない。道も、地図上では実際より太く描かれることになる。道を太く描くからといっ て、その分道沿いの平地を地図上で省略する、あるいは狭める、というわけにはいかない。 地形の「見た目」を変えるわけにはいかないのだ。いきおい道から離れた急斜面にしわ寄 せが行くことになりがちである。急斜面で「地図から受ける印象より高度差が大きい (あるいは小さい)・傾斜がきつい(あるいは緩い)」と思うことがしばしばあるのは、 ある意味当然のこと。作図側には「『絶対的な正確さ』と『見た目の適切さ』とのバラン スを取ること」が求められる一方で、読図側にも「イメージ合わせ」が求められるので ある。 ◇ マッパーは激斜面を強調する  オリエンテーリングのしやすさを保証するため、Oマップは作成規程上「25%の誇張」 が許容されている。例えば、2本の等高線の間の高度差は通常5mであるが、そこにも± 1.25mの差は許容されている。つまり、「等高線間隔5m」ということは、局地的には「等 高線間隔3.75mかもしれないし6.25mかもしれない」ということである。 自分は、25%以上の誇張をすることも、よくある。平地に突然現れる斜面であれば、高 度差3m以内でも強調したい。走れる斜面は良いが、「歩かなければならない斜面」は一挙 にスピードを奪い、タイムに影響する。もし、そうした斜面がそう見えないように地図で 描かれていたとしたら、現地で初めて「走れない」と気づき、読図からのイメージを裏切 られることになり、体力的にも精神的にもダメージが大きい。作図者として、競技者をそ ういう目に合わせてはいけないと考えている。なので、急斜面は必ず等高線2本詰めて描 く。等高線を周囲とつなげられないのであれば、補助コンタを使って表現する。  矢板は、地形の緩急に富んでいるので、地図上にこの手の誇張表現が多い。逆に、この 特徴を利用して、イメージに役立てて欲しい。そうすればルートプランも速やかに、適切 に行えるようになるであろう。 ◇ 一流の選手は研究熱心である テレインの研究と同様に、マッパーやプランナーの癖を執拗に研究するのが一流の選手 である。矢板塩田や不動の滝、三河高原や青山高原のテレインで練習を行うのは効果的で、 お奨めしたい。それらのテレインで新旧のマップを見比べるのも有効。古いマップは、往々 にして等高線の曲げ方が足りない。新旧のマップを見比べれば、「幸岡」の旧マップがニュ ーマップでどう変化するかも想像できると思う。 ◇ 「良い地図」とは  良い地図の特徴は、「等高線がつながっている」こと。悪い地図では、エリアとエリアの 間をつなげる際に辻褄が合わなくなって、崖の中に等高線を吸収させたり、田んぼの中で 等高線をごまかしたりしている。矢板の調査では、田んぼの中の等高線も手抜きせずに描 いている。「山と田んぼの境で等高線はこう出入りするべき」という通りの描き方をしてい る。  それから、「良い地図」は傾斜変換をしっかりと表現している。現地で斜度の変わってい ない場所は、急斜面であろうが緩斜面であろうが、地図上でも等高線の間隔は一定である べき。当たり前のようだが、マッパーに相当な技量がないとそうは描き切れない。インカ レの地図はそう描かれていると期待してくれて良い。逆に考えれば、地図上で等高線の開 き具合・詰まり具合が変化している場所は、現地でも傾斜が変化しているということ。 ◇ インカレのコースはコントロールされている  大会では、たとえ精度が悪い地図で行われたとしてもコースを公正なものにするために、 「コースコントロール」が行われる。インカレでは、コースコントロールに加え、「マッピ ングコントロール」も行われている。全日本大会でもマッピングコントロールが行い切れ ていない中、インカレは地図の妥当性が保証される大会であり続けている。「ちょいズレ」 はあるが、それらも試走後のフィードバックで修正を重ねており、インカレのコースを走 る上では影響が出ないようにしている。 ◇ インカレは「努力」が「結果」に結び付く大会  例えば世界選手権は、充分なトレーニングをしたとしてもなかなか結果が出せない大会 である。一方、インカレはしっかり準備をすれば、それに見合う成果が得られる大会であ る。そのことが選手の意欲につながり、インカレを魅力的なものとしている。皆さんも、 「やればやるだけ結果が出る」と信じて練習を続けて欲しい。 (記録:松澤俊行)